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FROM 川嶋朗

胃がんが再発した患者さん(仮名、70代・男性)が、
手術をすることになったのですが、
とても1カ月も入院していられないとおっしゃるのです。

話を伺うと、奥様が昨年から認知症で、
息子さんが身体障害者(全盲)で、
自分が世話をしなければならないからだというのでした。

ご自分ががんになった原因は
何かと思いますかと伺うと、

「食べるものには気をつけているし、
 妻や息子には奉仕しているし、
 どうして自分ががんになったのかわからない」

とおっしゃるのです。

原因を突き止めなければ治療はできません。
私はこう問いかけました。

「息子さんはずっと全盲ですか?」

聞けば、全盲になったのは中学生の頃で、
小学生の頃は弱視で、
ずいぶんといじめにあったということでした。

中学生のときに普通のクラスから盲学校に転校。
高校に進学してマッサージ師の資格もとったそうです。

とはいえ、高校時代はひきこもり、
親やまわりの人たちに
暴力をふるうことも多かったそうです。

息子さんは今、50歳で、
一緒に暮らしているとのこと。

働かず、ずっと家で
視覚障害者用のパソコンをしているそうです。

私は思わずこう言いました。

「それって、親として
 残酷なことをしているんじゃありませんか?
 あなたたちが亡くなっても、
 息子さんは生きていかなければならないのです。

 親が子どもに対して
 絶対に果たさなければならない義務は、
 子どもが独り立ちするまで見届けることです。

 あなたはその義務を怠ってニートを許しています。

あなたが亡くなったあとのことは考えていません。
それはとても残酷なことではないでしょうか?

あなたが亡くならなければ息子さんはニートのまま。
そろそろ、このことに気づいてほしいと、
 あなたに死をもって気づかせるために
 胃がんになったのではないでしょうか。

 あなたがやるべきことは、
 あなたが亡くなっても、
 息子さんがニートではなく、
自力で生きていけるようにしてあげることです。

 息子さんが気づいてくれるようなことを、
 あなたが今すれば、
 あなたの病気も治るかもしれません」

私がそういうと、
その患者さんは押し黙ってしまいました。

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◎編集後記
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愛情というのはとても難しいものです。
やってあげる愛情もあれば、
あえて放っておく愛情もある。

愛情が深いからこそ、
冷静な判断ができなくなることも…。

生き方が表れる病気は、
生き方に対する
体からのメッセージなのですね。

自分の考え方を見直すことが
病気と向き合うために必要なのだと
学びました。

ー 三浦 とも子

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