FROM 川嶋朗
夢を捨ててはいけない、
人生を投げてはいけない、といわれます。
たしかに、夢をあきらめたり、何かにつまずいて、
絶望のあまり一度しかない人生を投げて
自暴自棄になってしまうのは、
心にも体にもよくありません。
しかし、
思うようにいかないのが人生です。
生きるため、
あるいは家族を支えるために、
無理やり自分の夢を封印して、
意にそぐわない仕事や生き方をしている人は
たくさんいます。
たとえば、
本当は芸術家になりたかったのに、
それでは生計を立てていくことが難しく、
夢をあきらめて、企業に就職して
会社の仕事に忙殺されてきたという人がいます。
あるいは、
好きな人と結婚して、
家族で各地を旅行して歩くのが夢だったのに、
夫の親や、自分の親が病気で倒れてしまい、
介護のために自分の夢をあきらめてしまった
という女性もいます。
しかし、いくら夢を無理やり封印しても、
心の奥底に「本当はこんなはずじゃなかった」という思いは
くすぶりつづけてることが多いのです。
そして、そのモヤモヤが原因となって
病気を引き起こすというケースが少なくありません。
無理には2つあります。
意識してやっている無理と、
自分では気がつかないうちに無意識にしている無理です。
たとえば、
今やっている仕事が好きな人は、
自分の体のことは後回しにして、
ついつい無理して仕事を優先させてしまいます。
意識して無理しているツケが、
自律神経のバランスの乱れとなって
さまざまな症状をつくってしまうのです。
一方、無意識にやっている無理は、なかなか気がつきません。
作曲家の高井さん(仮名、50代・男性)は、
がんが背骨に転移して激しい痛みに苦しんでいました。
お話を伺っているうちに、
高井さんには何かトラウマがあるようでした。
自分の意識のなかでは病気の原因に心当たりがなくても、
潜在意識のなかには原因があるのかもしれません。
そこで、高井さんの病気の原因を見つけようと
退行催眠を試みたところ、
高井さんにはやはりトラウマがあったのです。
それは、「自分が作りたいと思う音楽を書きたかったのに、
夢がかなわなかった」ことでした。
それが心の傷になっていたのです。
病気になるまでは気づいていませんでしたが、
高井さんは数々のヒット曲を作曲してきましたが、
そうした仕事は
音楽業界で生きていくための単なる“仕事”でしかなかったのです。
心の奥深くでは、
本当に自分が作りたい曲を書きたかったのです。
このことに催眠療法でようやく気づいたのでした。
私は「今からでも遅くないですよ。
ご自分の好きな音楽を作ればいいじゃないですか」と話しました。
その日から、
高井さんはご自分の作りたい曲を書き始めたのです。
骨転移の痛みを緩和するには放射線が有効です。
そこで、高井さんに放射線科の治療を
受けてもらうことにしたのです。
ところが、私が紹介した放射線科の医師から電話があり、
「高井さんのどこに転移があるのですか?
そんな転移は見れらません」と言うのです。
なんと、がんは高井さんからすっかり消えていたのです。
何よりも病気の根本原因に気づくことができたことが
よい結果をもたらしたのでしょう。
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◎編集後記
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心と体を現実が支配しているとき、
気づいていない無理や
気づいていない疲れに
ハッとさせられることがあります。
人間は放っておけば
無理をしてしまう生き物。
少しでも違和感を感じたら
自分の体や心を一旦解き放して
見つめ直していこうと思います。
ー 三浦 とも子