FROM 帯津良一
こうして意気軒昂(いきけんこう)として
明け暮れ手術に精を出していた私の胸に
翳り(かげり)のようなものが
浮かぶようになったのはいつの頃のことか。
手術をめぐる術前術後のすべてが往時に比べて
見違えるようによくなっているのに、
再発して帰ってくる患者さんは
一向に減らないのである。
当時は術後の補助療法が
現在のように徹底してはいなかった。
時に鎖骨上窩や上縦隔に術後
照射をすることもあるにはあったが、
ほとんどの場合はこのようなことをせず、
定期的に通院していただきながら
血液検査などを中心に
チェックをしていただけだった。
いくら手術をめぐる進歩が著しくとも、
人体には、あるいはガンという病(やまい)には、
手術だけでは手のとどかないところが
あるのではないだろうか
という考えが時に
頭をもたげてくるようになってきた。
そこでわれらが
西洋医学の限界について考えてみた。
西洋医学の限界とは何か?
病の局所を診ることにかけては
これほど長(た)けた医学はない。
ところが局所と他の局所との関係
あるいは全体との関係を診ることを
得意としているように思えない。
ここに西洋医学の限界が
あるのではないだろうか。
それならば局所と局所との関係
あるいはつながりといったものを診るのを
得意とする医学を西洋医学に
合わせることによって、
治療成績の向上を
はかることができるのではないか。
つながりを診る医学とは何か?
あっ、
それは中国医学ではないか。
中国医学の基本概念は
陰陽(いんよう)学説と
五行(ごぎょう)学説ではないか。
一切の万物は陰陽二気によって
生ずるとするのが陰陽学説で、
天地の間に循環している
木(もく)・火(か)・土(ど)・金(こん)・水(すい)
の5つの元気の消長によって
万物の動静を説明しようとしているのが
五行学説である。
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◎編集後記
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昨夜秋刀魚を食べました。
私は秋刀魚が大好きで、
秋刀魚を焼いていると
いてもたってもいられなくなります。
秋刀魚を食べていると
自分が野良猫になった気がします。
―三浦とも子